買ったばかりのカバンのチャックが壊れた。
それで僕はいま、修学旅行のことを思い出している。
小学校の修学旅行、僕らの行き先は京都と奈良だった。初日の自由行動で京都の街を歩いていた僕らは、見るもの全てが新鮮に写る中、お土産物屋の木刀に目が留まる。見るもの全てが新鮮に写っているにも関わらず、木刀に目が留まってしまうのが少年の性だということは、当然みなさんも知っていることだろう。
幾人かの同級生が、木刀を買っていた。それはけっこうな決断のはずだった。キーホルダーなどの小物と違い、木刀は大物だ。値段も高い。初日のこの段階で木刀に大金を使ってしまえば、奈良が丸ごとウインドーショッピングになる羽目にもなりかねない。何が目に留まろうとただ歯噛みするのみ。それがわかっていながら、この段階で木刀に大金を使ってしまうのが少年の性だということは、当然みなさんも知っていることだろう。
僕もその少年のひとりだった。ひとりではあったが、僕の失敗は他の少年たちよりひとつ多かった。天の邪鬼の上に馬鹿だった僕は、ヌンチャクを買ってしまったのだ。
大袈裟に書いてはいるが、実際のところこれはそう珍しいことではないだろう。どこのクラスにもひとりはいたんじゃないかと思う。天の邪鬼の馬鹿が。ヌンチャクを買った奴が。そういう人たちで今度オフ会でもしましょう。たぶんみんな夜型だから、深夜までどっぷりと。
振り回せば振り回すほどかっこいい木刀に比べて、振り回せば振り回すほどからだが痛いのがヌンチャクだった。そして僕はいま、振り回せば振り回すほどこころが痛い暮らしぶりを酒で誤摩化しているおじさんになっている。何を言わせるのか。勢いで走り出したペンを創作意欲が向かうままに任せていたらこんなことになった。キーボード打ってんですけどね。
チャックが壊れてヌンチャクのことを思い出したのも、今日がはじめてだった。