小さい頃は、みんなが『無重力空間』に憧れていた。
一握りの、純粋に宇宙に興味がある子たちはその限りではないが、その他のバカ連合予備軍な僕たちは、宇宙そのものよりも、とにかく『無重力空間』にひたすら憧れたものだ。
無重力に対する会話の内容も酷い。「おれはしょんべんをまきちらすね!」とか言うヤツが必ずいるのだ。あたり一面に飛び散るしょんべんの玉から逃げ切れるのかどうか、そんなことばかりが僕たちの頭を支配し、想像力に長けたヤツから順番にパニックに陥っていく。普通の親なら目を覆いたくなるような我が息子のバカっぷりであると思う。
さらに、それに輪をかけたバカの標本として名高かったH君は、しゃぼん玉液に少量のしょんべんを混ぜて、『仮想無重力空間』の惨劇部分のみを見事に再現していた。バカと天才は紙一重とはまさにこういう事を言うのだと思う。誰一人逃げ切れるものは居なかった。
そんな僕たちもいくつか歳をとり、無重力空間でしょんべんを撒き散らす虚しさについても考えが及ぶようになると、途端に無重力空間への憧れも失せてしまう。実に不便なところじゃないか。ろくすっぽメシも食えない。排便作業のメカニズムはどうなっているのか。
結論としては、やはり僕はあまり宇宙には興味がないのだと思う。