今日は朝から一日中お腹が痛く、何度もトイレに駆け込んだ。
あれはお昼前、3回目の試技だっただろうか。会社のトイレには大便器の個室が2つ。手前の方が試技中であったので、奥の個室に狙いを定め歩を進めたが、その瞬間手前の個室の戸が開いた。
ちょうど事が済んだのだろう。本来それだけの事なのだが、問題は出てきた男子の髪型がブロッコリー型に仕上がっていた事だった。
ぱっと見ただけでも相当に長いその髪が、ゴムでわさわさとくくってあり、くくられたその「わさわさ」な部分は、天に向かって真っ直ぐ伸びていた。それは大地にしっかと根付いているその様相を見事に現しており、しかも相当な天然パーマであると見えて、「わさわさ」した部分はブロッコリーのそれと激しく類似している。
そのキングサイズにたくましいブロッコリーに、僕は思わず見とれてしまい、視線が3秒ほど固まってしまった。いやあ、これは立派なものだねえ。アフロヘアーもなんのその、だね。
と、
「あっ!!!!」
僕は驚いた。固まった視線が気になったのか、自分の髪に手をやったその男子が突如として声をあげたのだ。
手の洗浄もそこそこに、男子はそそくさとトイレから出て行った。頭のブロッコリーは健在のままで、恐らく僕の目の前でブロッコリーを解き放つのはバツが悪いと感じたのだろう。その角を曲がったところに更なる人がいるかもしれないリスクを背負って、男子は駆けに出たのだ。結果、声は上がらない。男子は賭けに勝った。
しかしどうだろう。この顛末から解ることは、あの男子の立派なブロッコリーはオシャレでもなんでもなく、それを人に見られることはイレギュラーである。そんな存在だったということだ。お風呂上りに鏡の前でポーズを取ってみる。そんな感覚なのだと思う。
仕事中にストレスが溜まると、トイレの個室に隠れて髪型をブロッコリーにしてみる。それがあの男子のリラクゼーションだとすると、いつそれに目覚めたのか、どんな必然性にかられてその行為に及んだのか。いつの日か彼の口からその真意が語られることを、願ってやまない僕だった。