僕が子どもの頃にあった遊び、『陣地取り』は、陣地を取り合うことよりも、「切った切られてない」、で揉める遊びだった。
陣地取りとは、まず数人ごとのチームに分かれ、それぞれに陣地となるオブジェクトを決める。大きな岩だったり、電信柱だったり、まあこれはなんでもいい。で、そこを敵チームの誰かにタッチされたら負けである。
いたって単純なルールなはずだが、ただひとつ。敵チームへの攻撃手段が問題だった。
自分の体(手)でもって、相手の体を触る(切る)と、切られた人はアウトとなる。この大雑把で曖昧なルールのおかげで僕らは毎回大ゲンカになるのだ。
なにしろお互いに体が武器であるからして、言ってみれば剣と剣をぶつけてどっちが切ったのなんのと言っているわけだ。冷静に見れば、「どっちも切ってどっちも切られた」が正解なのである。
だいたいこの遊びの結末は、陣地取りのルールでの決着を待たずして、誰かが泣きながら、或いは怒りながら家に帰ってしまったりする。「切った切られてない論争」の果てに、どっちらけな終わり方を迎えるわけだ。こんな日は各家で晩ご飯にカレーを望む声が聞こえたという。
2つ年上の早熟なK君が、5年生の頃からこの遊びで目の色を変えていたのも印象深い。