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「カレーは辛ぇからカレーっていうんだ」と、思い込んでいたあの頃。最初はみんなもそうだったのではないだろうか。
だが実際はそうではない。カレーの語源として有力な説は、インドの一部で使われている言語の中に、食事やおかずのことを表す「カリ」、或いは「カリル」という言葉があることから、インドを訪れたポルトガル人が、食事をしていたインド人に「その料理は何だ?」と尋ねたところ、その物自体がどのような物であるかを尋ねられたと思ったインド人は、「カリ(これはメシだ)」と答えた。
それを聞いたポルトガル人は、その時インド人が食べていた「スパイスで煮込んだ料理」のことを「カリ」と呼ぶのだと思い込み、ヨーロッパへ持ち帰る。そしてそれが「curry」という英語になり、スパイスで煮込んだ料理の呼び名となった、という訳だ。
この話は考えてみるとなかなか面白い。偶然の思い込みで生まれた「カレー」という言葉は、それとは関係のないところで生まれた、「辛い」という非常に似た語感の言葉で表される内容であり、そこでまた新たな思い込みを生んでいるのである。
もしポルトガル人が訪れた場所が少し違って、そこでの言語では食事やおかずのことを「アマイ」と呼んでいたら、今頃日本では相当ややこしいことになっているだろう。
「おれはあまいはかれーほうがいいね」
「えー。ぼくはかれーのはにがてだからあまいはもっとあまいのがいいよ」
「なんだよそれー。おまえもしかしていまでもあまいの王子様?」
「かれーあまいのぴりぴりすんのがだめなんだよ」
こんなわからないやりとりが予想される。自分で書いたものの、見直してみると若干混乱する程にわからない。食事やおかずを表す現地の言葉が「カリ」であって、本当に良かった。
恐ろしい話だが、もし現地の言葉が「ウヌコ」であったなら、僕らの今もなかったと思う。