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手からかめはめ波が出せるような気がしていた。殆どの男の子はそうだったと思う。だが、同時にバリアのことも忘れないでいたい。
「バリア!」 男の子がそう叫べば、たちまち半透明な膜が体を覆い、外敵から身を守ってくれる。なにしろ男の子には襲い掛かってくる敵がたくさんいたのだ。どこからともなく飛んでくる輪ゴムや南天の実。水風船爆弾が飛び交う夏はさらに油断できない。そして冬は雪玉だ。硬く硬く握られると、貧弱なバリアでは防ぎきれない。「バリア!」と叫ぶ声にも力が入る。
あれから十数年。なんとなくおとなになった僕だが、今でもバリアは必要なままだ。
上司に怒られているとき。重い空気のミーティング。やらかした冗談に注がれる冷たい視線。そんなときは心で小さく「バリア!」と念じる。全ての現実をシャットアウト。トンカツ食べたいとか考える。
そういうことに使われるバリア。そこにファンタジーはないが、有効度は子どもの頃のそれよりも上だと思う。