日頃うっかりの多い僕だが、あの日ほど自分を「ウッカリスト」だと感じたことはない。
現在住んでいるアパートに引っ越してきて、もう3年になる。ここは割と広い間取りでキッチンも使いやすく、かなり気に入っているのだが、前に住んでいたところはワンルームで、キッチンも狭かった。
そのワンルームの部屋には4年ほど住んでいて、そこそこの料理好きでもある僕は、その狭いキッチンには随分と愚痴をこぼしたものだった。シンクは狭い、シンク横のキッチン台も狭い。まな板を置いてしまうと、もうキャベツのひとつも置けやしない。そんな使いづらいキッチンだった。
3年前のある日。4年間住み続けたそのワンルームの部屋を出ることになった僕は、引っ越しの準備に追われていた。
手伝いに来てくれていた後輩と、一緒にキッチンまわりを片付けていたその時だった。しゃがんだ状態から立ち上がろうと、おもむろにシンク横のキッチン台に手をかけた後輩が、キッチン台から「なにかをひきだした」。
ガラガラガラ
その瞬間、僕は驚きのあまりのどちんこが絡まってしまった。
叫び声すらあげられないほどの衝撃。4年間狭い狭いと嘆き続けたキッチン台の下から、なんと引き出し式の新たなキッチン台が現れたのだ。
後輩は後輩で、僕がうっかりとそれに気が付かないまま、4年もの日々を過ごして来たことに、ものすごい衝撃を受けている始末。無理もない。このうっかりは、今でも超えられない僕の最大級のうっかりなのだ。ウッカリストとしてなら北京でメダルが狙えるぐらいのうっかりだ。
現在のアパートに引っ越してすぐに、僕がキッチンまわりのあらゆる場所を引いたり押したりしたことは、言うまでもないのである。